クルミ大の「前立腺」が、卵・ミカン大になる「肥大症」
前立腺は男性の生殖器で、精子に栄養や保護を与える精液の一部を作る役割を担っています。直腸と恥骨の間に位置し、隣接した膀胱の出口で尿道を囲んでいますので、前立腺が肥大すると膀胱や尿道が圧迫されて頻尿や残尿感、尿が出ない尿閉など、様々な症状を起こします。
前立腺肥大症は、前立腺が大きくなる病気です。成人男性の前立腺はクルミ程度の大きさですが、前立腺肥大症になると卵やミカン程度の大きさになります。
前立腺肥大症の原因
はっきりとした原因はまだ解明されていませんが、男性ホルモンが発症に関与しているとされています。男性も中高年になるとホルモンバランスが変化しますので、その影響によって前立腺が肥大すると考えられています。
前立腺肥大症になりやすい人
前立腺肥大症は加齢によって発症頻度が上昇します。組織学的には30歳代に前立腺の肥大が生じはじめ、50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳では90%に前立腺の肥大が見られるとされています。肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症などがあると前立腺肥大症の発症リスクが高くなることが指摘されています。ただし、喫煙や飲酒、性生活の関与や影響についてはまだよくわかっていません。肥大していても症状を特に起こさない場合もあり、治療を必要とする症状があるのは前立腺肥大を起こしている中の1/4程度とされています。
前立腺肥大症の症状前立腺肥大症では、大きく3つの段階に分けることができます。それぞれの段階で特徴的な症状がありますので、少しでも気になる症状がありましたらご相談ください。
第1段階
前立腺が肥大し、膀胱や尿道を刺激することで起こる症状です。
- トイレに行く回数が増える(頻尿)
- 尿の勢いが弱まる(尿勢低下)
- おしっこが残っている感じ、すぐまたトイレに行きたくなる(残尿感)
など
第2段階
肥大した前立腺が尿道を圧迫して細くなることが原因と考えられます。症状が進むと膀胱に尿が残り、残尿感を覚えます。
- おしっこをする時に力む必要がある
- トイレに行ってからおしっこが出るまでに時間がかかる
- おしっこの切れが悪くなる
- おしっこの途中で尿が途切れる
など
第3期
進行した場合、尿が全くでなくなることもある状態です。
- 極度の頻尿
- 1回の排尿に時間がかかる
- 尿が全くでない
など
前立腺肥大症の検査・診断
国際前立腺症状スコア(IPSS)
他の疾患と鑑別するために、過去の病歴などをお伺いし、排尿に関する自覚症状の程度を『国際前立腺症状スコア(IPSS)』という尺度を用いて問診します。IPSSは1995年にWHO(世界保健機関)により制定された、世界共通の評価基準です。
なし | 5回に1回未満 | 2回に1回未満 | 2回に1回くらい | 2回に1回以上 | ほとんどいつも | |
最近、排尿後にまだ尿が残っているような感じはありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
最近、排尿後、2時間以内にもう1度トイレに行かなければならないことがありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
最近、排尿途中に尿が途切れることはありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
最近、排尿を我慢することがつらいと感じが事ありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
最近、尿の勢いが弱くなったと感じることはありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
最近、排尿開始時に力を入れる必要があるときありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
最近、夜中に何回くらい排尿のために起きましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
上記、合計点数が7点以上の場合は前立腺肥大症の疑いがあります。
まずは、受診して適切な検査を受けましょう。
IPSS-QOLスコア
とても満足 | 満足 | ほぼ満足 | 何とも言えない | やや不満 | 不満 | とても不満 | |
現在の尿の状態が続くとどう思いますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
超音波(エコー)検査
腹部に超音波をあてて前立腺や膀胱の形、大きさ、残尿量を測定し、腫瘍や結石の有無を調べることができる検査です。超音波は低侵襲な方法であり、簡単に行うことができます。
血液検査
前立腺肥大の他に前立腺の病気として「前立腺がん」があります。血液中の前立腺特異抗原(PSA)を測定することで、前立腺がんの早期発見に役立ちます。
直腸内指診(直腸診)
肛門から指を入れて直腸越しに前立腺を触診します。前立腺の大きさや硬さを診断することが可能です。排尿障害の原因が前立腺肥大か、前立腺炎や前立腺癌など他の要因かを判定します。
尿流量測定
おしっこの勢いや出ている時間を調べる検査です。排尿の際の流れに異常があるかを評価します。
前立腺肥大症の治療前立腺小さくするにはどうすればいい?
薬物療法
α1アドレナリン受容体遮断薬・PDE5阻害薬
推奨グレードAと、薬物療法では第一選択となります。排尿のために働く筋肉に働きかけて緊張を緩め、尿道の圧迫を改善します。約2/3に症状緩和効果が現れるとされています。
その他
多くは推奨グレードC以下となりますが、漢方薬を使った治療も可能です。
手術療法
内服薬による治療で十分な効果が得られない場合や、副作用が強く出てしまう場合に検討します。多くの術式が存在し、現在はほとんどのケースで侵襲の少ない内視鏡による手術が行われています。手術が必要な場合には、連携している高度医療機関をご紹介しています。